「シンセサイザーの基礎知識」
何で今更とお感じになる方もいらっしゃるでしょう。が、私が専門学校の講師をしていた時、学生達は私と一回り近く年齢差のある19〜20歳という若い人たちでした。当然彼等が物心ついたころにはアナログシンセはもちろん、レコード盤さえなくなっていた時代で、それらについての知識は全くと言っていいほどありませんでした。現在氾濫しているデジタルシンセをはじめとした音源群も、概念的にはアナログシンセの時代の考え方が生きずいているわけで、その知識を吸収出来れば今の音源ももっと使いこなせるのではないかと思うのです。
というわけで最初は「シンセサイザーの基礎知識」というテーマで簡単にお勉強してみたいと思います。
シンセサイザー(電子楽器)の種類
シンセの音源方式には大別して5種類があると考えられます
1、アナログシンセ等に代表される「減算方式」
2、電子オルガン等に代表される「加算方式」
3、FM音源に代表される「乗算方式」
4、サンプラーに代表される「サンプリング方式」
5、最近のDTM音源等に代表されるいわば「複合方式」
この5種類です。
1、減算方式とは
図は減算方式音源(アナログシンセ)のブロック・ダイアグラム です。
1ー1 VCO
Voltage Controlled Oscilatorの略で、直訳すると「電圧制御発振器」となります。
音の元となる電子音を発生させ、電圧の高低によって音程を作ります。
代表的な波形には
ア)正弦波
イ)矩形波
ウ)非対称矩形波
エ)三角波
オ)鋸歯状波
等があります。
1ー2 VCF
Voltage Controled Filterの略で、直訳すると「電圧制御ろ過器」となります。
VCOからの電子音を加工し音色を作るブロックです。
一般的にフィルターには3つの種類があります。
ア)Low Pass Filter
低い周波数帯を通すフィルターで、フィルターレベルを上げていくと、高い周波数帯が徐々にカットされていきます。一般的にフィルターと言えばこのLPFを言います。
イ)High Pass Filter
高い周波数帯を通すフィルターで、フィルターレベルを上げていくと、低い周波数帯が徐々にカットされていきます。
ウ)Band Pass Filter
特定範囲の周波数帯を通すフィルターで、フィルターレベルを変化させていくと変化させた近辺の周波数帯がカットされます。
1ー3 VCA
Voltage Controlled Amplifireの略で、直訳すると「電圧制御増幅器」となります。
出来上がった音のレベルを増幅し、音を出力します。
1ー4 EG
Envelope Genaratorの略で、鍵盤からのON/OFF情報に任意のカーブを付け、音の形を作り上げます。
EGには4つの要素があります。
ア)Attack Time(アタックタイム)
鍵盤が押されてから最大音量に達するまでの時間を決定します。
イ)Decay Time(ディケイタイム)
最大音量からサスティンレベルに達するまでの時間を決定します。
ウ)Sustain Level(サスティンレベル)
音の持続部分の音量レベルを決定します。
エ)Relese Time(リリースタイム)
鍵盤が離されてから音が消えるまでの時間を決定します。
このような方式のEGを一般的にADSR方式のEGと言います。
1ー5 LFO
Low Frequency Oscillatorの略で、直訳すると「低周波発振器」となります。
遅い周期の信号を発生し、VCO、VCF、VCAに変調をかけることが出来ます。
VCO、VCF、VCAに変調をかけた場合以下のような効果が得られます。
ア)VCOにかけた場合 ビブラート効果
イ)VCFにかけた場合 ワウ効果
ウ)VCAにかけた場合 トレモロ効果
2、加算方式とは
2ー1 オルガンの原理
オルガンは音程(周波数)の異なる正弦波を組み合わせて(加算して)音を作っています。
空気式のオルガンの場合、リードに空気を送ることで正弦波を作り出し、電子オルガンの場合、正弦波を電気的に作り出しているというわけです。
2ー2 倍音について
例えば,ピアノを例に挙げた場合、音程A4=ラ(440Hz)を1音鳴らしたとすると、聴感上はラの音に聞こえますが、実際に含まれている音の成分は1種類だけではありません。基音は440Hzだから第一倍音は880Hz、第二倍音は1320Hzと基音に関係する成分がそれぞれ異なるレベルで同時に鳴っているわけです。それが俗に倍音と呼ばれるもので、その複雑な絡みがいわゆる音色を作り出しています。
2ー3 フーリエ合成
全ての音(波形)は正弦波の集合体であるというフーリエという人の理論に基ずき、周波数の異なる複数の正弦波を組み合せ(加算して)波形を作り上げる方法で、俗に倍音加算合成とも言われます。実際にこの方式を採用していたシンセは私は知りませんが、CMIにはこの機能が付いていました。
2ー4 逆フーリエ合成
これはサンプリングなどで録ったPCM音を正弦波での合成に置き換えてアナライズ(分析)して最終的に倍音合成音を作り上げる方法で、カーツェルなどに使われた方式です。
3、乗算方式とは
乗算方式なんて言い方をするといかにも難しそうですが、何の事はないFM音源の事です。
図は乗算方式音源(FM音源)のブロック・ダイアグラム です。
3ー1 FM音源の特徴と原理
FMとはラジオのAM、FMと全く同じ意味で、FM=Frequency Modulation(周波数変調)、ちなみにAM=Amplitude Modulation(振幅変調)という略号です。
この場合の周波数変調はある音に別の音を影響、作用させ元の音に変化をつけると理解すると良いと思います。つまり、周波数変調とはある音のピッチ(周波数)を別の音で動かす技術のことを言います。
FM音源の大きな特徴(メリット)は、楽器音の特徴であるピッチ、音色、音量の3要素を一括してコントロールできることにあります。
図はDX7の6オペレータータイプのFM音源の4番のアルゴリズム(組み合わせ)です。
3ー2 オペレーター
FM音源の基本音源で、図の1〜6の番号がある6つがそうです。1個のオペレーターにはそれぞれ1個の正弦波が記憶(記録)されています、DX7の場合このオペレーターを6個持ち、最近の携帯電話のFM音源は2個のオペレーターを持っています。このオペレーターの数が多い程複雑な音色が作れる事は言うまでもありません。
3ー3 アルゴリズム
複数のオペレーターの組み合せのことで、DX7は32個のアルゴリズムを持ち、携帯電話では1種類(2つしかないので組み合わせようがない)のアルゴリズムを持っています。
3ー4 キャリアとモジュレーター
個々のオペレーターは、アルゴリズムの違いによりキャリアと呼ばれたりモジュレーターと呼ばれたりします。
図の点線で囲まれた上がモジュレーターと呼ばれ、主に出力される音の音色を支配します。また点線で囲まれた下がキャリアと呼ばれ、主に出力される音の音程を支配します。
3ー5 デジタルEG
個々のオペレーターにはそれぞれ1個のEGが付いていて、キャリアに対してのEGは音量の時間的変化をコントロールし、モジュレーターに対してのEGは音色の時間的変化をコントロールします。
アナログシンセのADSR方式のEGと異なり、デジタルEGはレイト(レベル変化速度)、レベル(各ポイントのレベル)によってカーブを決めていきます。このデジタルEGのメリットはADSR方式のよりカーブのセッティングパターンが格段に増えたことにあります。
3ー6 PD音源
PD音源はカシオが独自に開発した音源で、PDとはPhase Distortionの意味です。原理はほぼFM音源と同様なのですが、FM音源は元の波形がサイン波であるのに対して,PD音源はコサイン波が元波形であるこが違っていただけのようです。
4 サンプリング方式
図は減算方式音源(アナログシンセ)のブロック・ダイアグラム です。
4ー1 PCM音源の原理と特徴
PCM=Pulse Code Modulationの略で連続した音声信号をデジタル信号に置き換え、記録、再生する方式のことです。もともとは情報化社会に追従して電話回線の整理等を目的とした通信技術として発達してきたものですが、多くのメリットから今ではオーディオ、ビデオ等幅広い分野に応用されている技術です。
PCM方式は大きく次の3プロセスに集約することができます。
4ー1ー1 信号の標本化(Sampling)
元の音の波形から一定のタイミングでレベルを読み取り、元波形に近い波形を形成させる。
4ー1ー2 標本化された値の量子化(Quantization)
理論的に無限大で表示されるアナログ値を四捨五入して半端のないきれいな値に直す。
4ー1ー3 量子化された値の符号化(Coding)
量子化された値を2進数(デジタル信号)に置き換える。
こうしてデジタル化された音声信号はデジタル信号として記録可能な状態になります。ここまでのプロセスを俗にA/Dコンバートと呼びます。逆に再生する場合は、符号化されたデータを量子化された状態まで戻しもと音と近い波形を形成したところで音声信号として出力します。このプロセスをD/Aコンバートと言います。
4ー2 エイリアイスノイズ(量子化雑音)
標本化された値を量子化するとき、当然若干の誤差が生じ、音にした時元音に含まれない周波数成分が発生することがあります、これをエイリアイスノイズ(量子化雑音)と呼び、このエイリアイスノイズは元音の大小に関わらず一定な為、特にレベルの小さい元音についてはS/N(再生音質)の問題が生じてくる ことがあります。
5 複合形式
最近のほとんどのシンセはこのタイプと言えると思います。
ここでは詳細には触れませんが、過去にはシンセ音とPCM音を供用するローランド社のLA音源や、サンプリング形式を軸にいろいろな音色合成方法があったフェアライト社CMI、シンクラビア等がありました。
以上で今回のお勉強は終わりです。
本当はもっと図をふんだんに使って解説したいのですが・・・
何分容量に限りがありますので・・・ごめんなさい