「エフェクターの基礎知識2 イコライザー」
エフェクターとは言うまでも無く入力された原音に対して何らかの処理を施して音を変化させる機械のことを言います。近年ではDTM音源やデジタルミキサー等に内臓されるようになり実に手軽にエフェクターを使えるようになりましたが、一口にエフェクターと言ってもどんな処理をするかによって実に様々な種類があります。ちょっと聞いただけではほとんど効果がわからない物からすぐにそれだとわかるような物まであるのです。
そのエフェクターの仕組み、使い方については以外と知らないのではないでしょうか?
というわけで次は「エフェクターの基礎知識2」ということで、以外と知っているようで知らない「イコライザー」についてお勉強してみようと思います。
1、イコライジングするということ
イコライザー(以下EQ)と聞いて、知らない人はほとんど居ないと思いますが、「何それ?」と思った人も実は身近なところでEQに接しているはずです。
代表格で言えば、ラジカセやポータブルコンポなんかには必ず付いています。最近ははっきり「グラフィックEQ内臓」なんてうたってるのもありますが、簡易的なラジカセなんかには「ボリューム」「音量」のツマミ以外に「トーン」「音質」というツマミが付いているはずです。これは何を隠そうEQそのものなのです。
EQの設定を変えると音質が変わる。おぼろげでもその効果は想像出来るはずです。
ではそもそもEQとは何なのでしょうか?
実は一口にEQと言っても様々な種類があり、扱い方もそれぞれ異なります。
EQには大別して2種類があると言えます。
ちょっと難しいですが一つは周波数の平坦化を意図するものです。カセットなどのアナログ系テープの録音・再生カーブ(RIAAとかNABカーブと呼ばれます)の補正をするため固定された周波数特性を作り出し、フラットな特性を得られるよう設計されたものです。これはEQ(EQUALIZER)つまり、「等しくする物」という意味の通り、等化を目的としています。プリエンファシス(レコーディング機器を通過する前の信号に特定の周波数特性を持たせること)、ディエンファシス(レコーディング機器通過後の信号を元の周波数に戻す、または近付けること)と呼ばれるものも含めて周波数の平坦化を意図しています。
もう一つは、フラットな特性をあえて壊すことによって、楽器音などの音質加工に利用しようというもので、一般的にはこちらの方が馴染みの有るものです。
EQ処理をすることをイコライジングと言いますが、これは周波数の不要な帯域をカットしたり、周波数のピーク(山)やディップ(谷)を作り出すことによって、意図した音を得ようとすることを言います。
2、音質を加工するタイプのイコライザー
それでは、一般的であろう、音質を加工するタイプのEQにはどのような種類があるのでしょうか?
2ー1、2ポイント型
1kHz付近を中心に、低域と高域をシェルビング型(下図)で増減コントロールするものがほとんどです。安価なラジカセなんかについている「トーン」「音質」というツマミはまさにこのタイプと言えます。
変化の具合としては、カーブがゆるやかなため周波数の変化する領域が広くなりますが、逆に言えば凝った音作りは出来ません。
もう少し昔のミキサーなどには効きはじめの周波数を変えられるものもありました。(下図)
2ー2、3ポイント型
2ポイント型に中域プレゼンス型(下図)を加えたもので、低域、中域、高域の周波数ポイントが変えられるものが多いようです。また低域と高域はプレゼンス型とシェルビング型を切り替えて使えるものもあります。最近の民生機に付いているいわゆるパラメトリック・イコライザーとはこのタイプです。
このタイプでは、周波数がかなり細かく選択でき、ピークやディップの裾もシェルビング型に比べてせまいので、いじる必要のない周波数に影響を与えることなくシビアな音質加工が可能になります。
2ー3、パラメトリック4ポイント型
3ポイント型にさらに中域を加えたもので、低域、中低域、中高域、高域と4つのポイントで調整が可能です。それぞれの受け持つ周波数帯はクロスオーバーしていて、ピークやディップを連続して変えられるので意図した音の最良点が見つけやすいのが特徴です。このタイプは民生機ではほとんど見られません。プロの録音スタジオなどの多くがこのタイプです。
言うまでもありませんが、音の最良点が見つけやすいと言っても、ポイントが多い分変えられるパラメータも増えるわけで、使いこなすまでには多くの経験と感が必要になり、使い方が極めて難しいタイプであるとも言えます。
2ー4、4ポイント以上の形式
これらはグラフィック・タイプになっているのがほとんどで、1オクターブごとに周波数配列された7〜10ポイント位のタイプから1/3オクターブの配列で30ポイント以上のものまで種類も多く、アマチュアからプロまでいろいろと出回っています。
このタイプの特徴は、各周波数ポイントでピーク、ディップを数多く作れることと、ツマミがクリック・ストップ形式(ポイント、ポイントでカチッ、カチッと止まるタイプ)になっているものが多いので、復元性や正確性に優れているということです。このような特徴もあり、ミキシングされたトータル・サウンドの補正に使われることが多く、個々の楽器の音質加工に使われることは少ないようですが、使ってはいけないという法則があるわけではないので、数があるのなら使ってみるのも一策です。
3、パラメトリック・イコライザーの使い方と考え方
さて、EQが周波数帯のレベルを増減できることはお解り頂けたと思いますが、前述したように中でもパラメトリックEQは、強調したい音域や取り除きたい音域を見つけるのに非常に適しています。
仮に、EQ処理することの多いバスドラムを例に挙げてみます。
バスドラムの音決めをしようとする時、低域を+8dB位にセットしておき、周波数ポイントを300Hz位から徐々に低い周波数の方向へ移動して行くと、それまでモコモコしていた音から急に量感のある低音が得られるようになります。更に70〜50Hz位で、ズシッとくる音に行き当たります。しかしこれだけではただドスドスいっているだけでイマイチ面白くありません。そこで中高域も+8dB位にセットして周波数ポイントを移動させて行くと、3kHz付近でアタック音がグンと前に出てくるポイントが見つかるはずです。これでもまだこもって聴こえるようなら、今度は中低域ポイントを操作して、600Hz近辺を4dB位下げてやるとこもりがすっきり取れることがあります。これはあくまで一例です。
このように、EQは大体音の方向性が決まったら、あとはレベルや周波数ポイントを少しづづ動かし細かな音決めを行ってというプロセスで操作していきます。
しかし、音源が多くなればなるほど、それぞれ個々にその作業を行うわけですからそれは大変です。しかも最近の内臓されているデジタル式のEQなどでは、高域と低域にフィルターが備わっているのももあります、そうなるとこれらも含めて周波数を変えて行くことになるわけで、確かに不要な音を切ってしまえたり便利なものではあるのですが、フィルター装備の4ポイント型の場合、フィルターが2つ、EQのポイントが4つ、周波数ポイントがフィルター用も含め6つ、合計12もの調整ポイントをイジらなければならなくなるわけです。こうなると熟練したプロならばいざしらず、全く基礎知識のない素人がイジくりまわすととんでもないことになりまねません。つまりEQは良く効く薬ではありが、その使用法を間違うととんでもない毒薬にもなりえるということを忘れてはなりません。
最近のオーディオ機器にはEQ装備のものが少なくありません。私自身もそうかもしれませんが、EQがあるとつい手がいってしまう傾向があります。しかし、EQをイジる前にそれ以前の音がしっかりしているかどうかをまずチェックするべきです。
EQはハード的に言えば、位相歪も増し、波形も乱れることになるため。本質的には音を良くするものではないということを頭に入れておかなければならないと思います。
EQは音に演出を加えるのになくてはならないものではありますが、実際にはEQではどうにもならない事の方が多いのが現実です。ツマミ一つでバイオリンの音がコントラバスの音に変身してしまうことは決してありません。EQは決して魔法の道具なんかではないと言うことを忘れないようにしたいものです。
今回のお勉強はこれで終わりです。